2021/12/07 22:21

こんにちは。

masuocafe コーヒー焙煎士 益岡悠介です。

商品ページでお知らせしておりますが、一部商品の焙煎具合を変更致しました。

masuocafeでは、僕が美味しいと思うコーヒーだけを取り扱っていて、
そのコーヒーの持っているポテンシャルを引き出そうと日々試行錯誤を繰り返しています。



今回は、ベトナム産のコーヒーのうち、3種類の焙煎具合を「中深煎り」から「中煎り」程度に変更しました。
具体的な味の変化としましては、これまでは「コク」と「まろやかさ」を重視した焙煎具合を施していましたが、
そこに「スッキリ」とした「華やかな」「軽快な」風味になるように変更しました。ほんの少しの酸味を残している感じです。

お客様との会話で「どんなコーヒーがお好きですか?」と聞くと
たいていは「酸っぱいコーヒーは嫌いです」との返答を頂戴します。
好きなコーヒーを聞いているのに、嫌いなコーヒーのお答えがくるんです(笑)
でも、それって理解できるんです。僕もかつてはそうだったんです。
酸っぱいコーヒー大っ嫌いでした。

僕は幼い頃、父に連れられ訪れた京都の老舗「イノダコーヒ」さんでカフェ・オレを飲んで
「美味しい!」と思ったのが、コーヒーの最初の記憶です。



その後大人になってからは、スターバックスで8年ほど従事したことが、僕にとってのコーヒーの基礎になっています。
ですから、僕はどちらかと言えば苦いコーヒーで育ってきたのです。
(イノダコーヒさんのコーヒーを苦いと表現するのは、いささか抵抗がありますがあえてわかりやすいように表現しています。)



ですから、かつての僕は、
どこの喫茶店、コーヒーショップを訪れてでも、そこのコーヒーに少しでも酸っぱ味があると
「おいしくない店」と無思考にレッテルを貼り付けてしまっていました。

しかしながら、30代前半のころ、初めて、アメリカはオレゴン州ポートランドにある
コーヒーショップを訪れて、その考えが変わります。
舞台は、「スタンプタウンコーヒー」と「クーリエコーヒー」という二つのコーヒーショップです。



これらのお店のコーヒーを飲んだとき、初めて酸っぱいコーヒーを心の底から美味しいと感じたのです。
ポートランド滞在中、他のコーヒーショップにも訪れましたが、どこのコーヒーも酸っぱい。でも美味しい。
とてもつもなく美味しいのです。



酸っぱいだけでなく、ジューシーな甘みが存する風味。
それがスペシャルティコーヒーと呼ばれるハイクオリティのコーヒーとの初めての出会いでした。

つまり、僕がそれまで忌み嫌っていた「酸味」と
スペシャルティコーヒーの「酸味」は、まったく異なるものだということをそのとき初めて知ったのです。
(スペシャルティコーヒーの定義は前回のブログでご紹介していますので、よろしければそちらをご覧ください。)

僕が嫌っていた「酸味」の正体は、いつ、誰が、どこで、どんなふうに焙煎されたかわからないことによる
品質管理不十分な劣化したコーヒーの酸味だったのです。
スペシャルティコーヒーの酸味とは、それとは全く異なり、品質管理がしっかりなされたコーヒーノキの栽培環境で
完全に熟したコーヒーチェリーから採取されるコーヒー豆だけで味わうことができるジューシーなフルーティー感のある「酸味」です。

僕は、それを肌身で理解できたとき、好きなコーヒーの幅が一気に開きました。
というより、それまで好きだったコーヒーがすべてリセットされ、そこから新しく好きなコーヒーを構築していくことができたのです。
それは現在進行中での「構築作業中」といえ、コーヒーを愉しむ上で最高の喜びと言える作業だと思います。

ベトナム産コーヒーは、その酸味が十二分に楽しめるコーヒーなのです。
そこで、僕はあまりに酸っぱいと敬遠されてしまうことも、自身の経験から理解していますので、
欧米で主流である極端な「浅煎り」ではなく、わたしたち日本人にあったまろやかでコクがあり、さらに華やかで軽やかな風味にできるよう
焙煎具合を追求しました。その結果として、今回の変更に至りました。

生意気なことを書き足しますが、現在のコーヒー業界の風潮である
「浅煎りと深煎りどっちが良いのか」というような画一的な議論は不毛だと考えています。
浅煎りでも、深煎りでも、品質管理さえきちんとなされているコーヒーであれば
あとは消費者がおいしいと思えば、それがすべてです。

ある小説家が言っていました。
「作品が自分の手を離れて読者の手に渡った後は、その作品に意味を与えるのはそれぞれの読者のみです。
 作者は作品の意味を提示あるいは教示する立場にはありません。」

コーヒーも同じことが言えると思っているんです。
僕は、コーヒー焙煎家として、品質の管理を徹底し、あとは自分が良いと思う焙煎具合を施しお客様に提供する。
その評価をするのはお客様です。
美味しいと思ってくだされば、また買ってくださるだろうし、そうでなければそこで終わり。
シビアだけれど、とてもフェアでシンプルな世界です。

僕は、だからこそ、コーヒーが好きなんです。
他人にとやかく言われる筋合いはまったくないし、自分が美味しいと思うコーヒーだけを追究すればいいだけです。
こんなに楽しいことはありません。

もちろん目指す味の焙煎ができなくて、悩み、七転八倒することは日常茶飯事です。
でも、だからこそ、そこに面白みがあると思っています。

masuocacfeをご利用くださっているすべてのお客様のおかげさまで
僕は、こんなに楽しく面白いコーヒーの仕事をさせていただくことができています。
いつも本当に心から感謝しています。

今後、さらにおいしいコーヒーをご提供できるよう精進してまいりますので、
どうぞ末長く宜しくお願い申し上げます。

今日も最後までお読みいただいてありがとうございました!

masuocafe 益岡悠介